七夕、星まつりvv

        *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
         789女子高生設定をお借りしました。
 


今年の梅雨は例年に無いほど本格的で、
梅雨の長雨どころじゃあない、
台風並みの豪雨が九州地方へ襲い掛かってもいるとかで。
川の氾濫に、土砂災害も多発。
土石流に巻き込まれ、車ごと崖っ縁まで押し流された人もあり、

 「そんな地域を思えば、
  ちょっと降ったくらいでぶうぶう言ってちゃあ、
  罰が当たるのかも知れませんが。」

それでも今週辺り、
きっぱりと梅雨明けしてほしいもんですよねと。
学園指定の学生かばんへ、
今日ばかりはさしたる冊数でもない教科書を詰めながら。
手入れのいい赤い髪を肩先に躍らせて、
すぐ後ろの席のお友達を振り返った平八へ、

 「そうよね。せっかくの夏休み前なんだし。」

微妙に口惜しい解答があったのか、
未練がましく眺めていた教科書を あ〜あと閉じながら。
そんな自分をも笑い飛ばそうというノリか、
緋色の口許を殊更ほころばせた金髪のお友達、七郎次が同意を示す。
こっそり“白百合様”と下級生たちから呼ばれているが、
その実、剣道部のホープという肩書も持つ勇ましさであり。

 「そいや、インターハイ向けの合宿とかあるんでしょ?」

シチさんだけじゃない、団体戦チームへも東京代表に何人か選ばれたとか。
情報通の平八がそう訊くと、えへへぇと面映ゆげに笑ったものの、

 「あるけど、終業式前はネ。」

歴史も古く、
創設当時は名士の娘さんでないと、
通うことも叶わなかっただろう、格式高い学園で。
現今でも名のある家庭のご令嬢が多数通っておいでなことや、
当時からさして変わらないままな、
古風で風格ある校風を差して、
世間様から“お嬢様学校”なんてな別称を冠されている女学園。
スポーツも健全な精神の修養にと奨励されているけれど、
あくまでも正々堂々と…という学園の方針から、
例えば授業へ支障を来さぬようにという点は徹底しているし、
成績や出席なぞへの影響がという言い訳にしてはいけないとされており。
期末考査の後、終業式までの授業がお休みとなる期間も、
他の学校ならそのまま夏休み扱いになるところ、
ここでは…あくまでも学期内だということで、
学外での合宿なぞの特別な練習は夏休みまで禁止となっており。

 「逆にいや、そんな練習でも勝てる腕の差だってことですよねvv」
 「や〜だ、そこまで言ってない〜。」

それでも笑いながら、ねえと七郎次が話を振ったは、
お隣のやはり金髪の美少女で。
そちらさんは提出しちゃった答案へは何の未練もなかったか、
とっととお片付けも完了しており。
机の上へと置いたカバンの蓋に手をかけ、
黙って二人を待っていたようで。
風通しがいいとはいえ、
多少は蒸し暑い教室の窓辺の席、
だというのに、相変わらずのトーンでお澄まししているお顔といい、
こういう話題には関心ないかと見えなくもなかったが、

 「…バレエ団の公演も八月半ばだ。」

ぽそりと応じた一言が、
久蔵もまた、試験休みは空いていると言葉少なに告げていて。
途端に“わあvv”と二人の親友たちがお顔を輝かせ、
さぁさ帰ろう帰ろうと、軽やかな足並みになる現金さよ。

 「週末に始まるのがQ街のバーゲンでしょ?」
 「Rシティのセールもあるよ?」
 「大川の花火大会はどうする?」
 「あ、勿論、八百萬屋で観ますよね?」
 「物干しの桟敷、予約させてもらえるの?」
 「当然ですvv」

今日が最終日だった訳でもないのに、
はや話題は試験終了後の予定へと飛んでおり。
お口の達者なひなげしさんと白百合さんの、
ついつい弾むそんな会話へ、
ぽそりと割り込んだのが、

 「………Jホテルのプールも。」
 「わ、いいの? 久蔵vv」

父方の祖父が裸一貫で起こした事業が、時流にも乗っての急成長。
あれこれと手を広げ、忙しくしているうちに あっと言う間に時は過ぎ。
気がつきゃ、名のあるコンツェルンとなっており、
そんな中でも宗家を直接支える主幹たる家が久蔵の実家。
数ある系列企業の中の、
彼女自身の両親が任されているのが、
都内でも指折りの秀逸レベルと数えられている級の、
名だたる高級ホテルだったりし。
実はそうまで生え抜きのご令嬢には違いない紅ばら様が、
混み合うシーズンへ突入する直前に限ってながら、
お友達を四季折々のイベントへ招待しているのも常のこと。
ご両親いわく、年頃のお嬢様たちのご意見を聴きたいから…だそうだけれど、
実のところはといやあ、
これまでお家へ招くほど親しいお友達がいなかった一人娘が、
やっとのこと作った親友二人へ、
仲よくしてくれてありがとうというお礼の意味もあるのだろう。
勿論、そんなことなぞ知ったことではない彼女らでもあったけれど。

 「今年はイタリアンのバイキングとセットになってるんでしょ?」
 「レディスプランだと、線香花火つきのケーキもつくぞ。」
 「せ…? ああ、あの針金花火ね?」

お揃いの制服姿なのは彼女らに限ったことじゃあない。
白いセーラー服にひだスカートという、
全く同じな服装をした少女らが、
最寄りの駅やバス停までの舗道を埋める様は壮観で。
微妙に古風なデザインや、
スカーフを胸元に絞っている箇所へほどこされた校章の刺繍から、

 『ああ、あの女学園の…』

と、それだけでも特別視される、
そんな一群の中にあっても一際映えるのだから、
これはもうもう、
すこぶるつきに愛らしいのだという証明にしかならない。
そんな美少女らが3人ほど、
そりゃあ朗らかに笑いさざめいて通れば、
誰もが視線と意識を奪われ、じいと見やってしまうので。

   脇見事故を招く 恐怖の三連星

  ……とまでは、呼ばれてないけれど。(こら)

周囲からの視線が集まるのも もはや慣れっこの三人娘。
微妙に声はひそめての、会話もやっぱり慣れっこで。
ホントは寄り道、いけないけれど、

 「このままウチで試験勉強しましょうよ」

赤毛の君がにっこり笑えば、
残りの二人が ええと頷く姿がまた、
優雅で可憐で、実に麗し。
原則“帰宅時の寄り道は厳禁”とされているその上、
政財界にその名を誇るよな、格のある家柄のご令嬢ともなれば、
帰宅後もみっちりとお稽古ごとがあったり、
早くも親がかりのお付き合いがあったりで、そんな暇なぞないとあって。
よほどの必要に迫られでもしない限り、
喫茶店なんぞへ寄ってくお嬢様は滅多にいない。
なのでと、これでも随分と、こそこそした行動ではあるワケで。

  明日は物理と英語だっけ。
  わたしには地獄のカップリングですよぉ。
  …俺には今日が(最悪だった)。
  久蔵、古文が苦手だものねぇ。
  その割には諦めが早いというか。
  じたばたしても(始まらぬ)。

一部、随分とずぼらな会話がふっと途切れたのは、
その、ずぼらを通していた綿毛の君が舗道の途中で立ち止まったからで。
それを見やってた数名が同時に止まってしまい、
後続の人に衝突されるという軽微な事故が、
商店街のあちこちで起きていたらしいが…それはともかく。

 「? どしたの? 久蔵。」
 「………。」
 「あ、七夕の笹だ。」

どういうつながりか、ああ短冊や色紙を扱ってるからかしら。
文具店の入り口、いわゆる軒端へ立てられてあったのが、
青々とした葉の匂いも香しい、結構大きめの笹飾り。
今時はそういうセットを売っているのだろ、
ビニールやセロファンの、やたらキラチカした飾り物が下がっており。
そうかと思えば、
薄紙を交互に点で貼ってあるの、
蛇腹みたいに開くとちょうちんや玉になる、
古式ゆかしい、立体的な細工ものとか。
カラフルな色紙をグラディエーションをつけて繋いだ吹き流し、
和紙を畳んで切れ目を入れて、開きながら縦へと延ばす“投網”など、
昔からのものも色々と飾られており。
勿論の、願い事を書いた色紙の短冊も何枚も、
こよりで下がっているのが ひらひら揺れるのがまた涼しげで。

 「これって大元は宮廷行事なんですってね。」
 「そうなんだ。」
 「いかにも文科系の、習い事が上手になるようにって由来ばっかでしょ?」

五色の短冊も元は布を飾ったそうで、
機織りや裁縫が上達しますようにという願かけになったのも、実は後づけ。
本来は天におわす神様への目印ということで、
判りやすいよう、あれこれ飾ったのが始まりだとか。
それがそこへと和歌を書いて披露するようになり、
いつしか天への願かけへと移りゆき。
そのうち、日本では紙が安価に出回り出したので、
布から色紙に変わりの、
書くことへも“お習字が上手になりますように”が加わった。
江戸時代になって市民行事として民間へ下ったので、
投網を飾ったりもするようになったりしたのであり、
今じゃあサンタさんへのおねだりと混同されたか、
あれが欲しい、何が欲しいと書くのも珍しくはない状況で。

 「戦国時代には武家にも広まったのでしょうに、
  武道関係の飾り物とか由来ものがないのが、きっぱりしたものですよね。」

微妙に眉を下げて見せた七郎次の言いようの後を継ぐように、

 「それはきっと…。」

久蔵が、紅色の双眸を伏し目がちにし、
一番手元に間近だった短冊を眺めつつ、何かしら言いかかる。
そこにはどういう巡り合わせか、

 『昇級試験で初段を取れますように』

という“願い事”が書かれてあり、
裾の短い着物だろうイラストが添えられてあったので。
柔道か、もしくは空手かの昇級試験を受ける子のものと思われて。
上手になれますように、免許が取れますようにと書きはするが、
元々の由来は、それくらい頑張るぞという意志表明であり。

 「………。」
 「そうですよね。
  武道ほど、他力本願では何ともならないものはないから。」

その上達は、本人の努力しか無い代物だから、
星に願いを懸けてもしょうがないと、
武家ならではな飾り物とか、生まれはしなかったのだろて。

 「…でも、どこかにはあるかもですよ?」
 「?」
 「何が?」

だから、戦国武将の…例えば兜飾りとか家門を模した飾り物とか。
平八のそんな突拍子も無いご意見へ、

 「うあ、何か…否定したいのは山々だけど。」

“こんなのありました”とかいって地方番組で紹介されてそうな気もする、と、
七郎次がしょっぱそうな顔になり。
そんなのあったら、きっと歴ジョが飛びつくぞ…とは、
やはり口許をひん曲げた久蔵からの、彼女には珍しい長セリフ。

 「実は、八百萬屋にも飾ってんですよね。」
 「え? でも、先週寄った時は…。」

ええ、土曜の晩に、
ゴロさんの知り合いの人が、いい枝振りのを持って来てくれましてねと。
口許に手を伏せて、にししvvと楽しげに笑ったひなげしさん。

 「わたしたちも何か書きませんか?」
 「他力本願じゃあないのを?」
 「もっちろん!」

  差し詰め、お二人は素敵な恋が実りますようにでしょうか?
  あ〜、自分はもう同棲中だからって、ヘイさんたら上から〜。
  〜〜〜〜〜。/////////(まったくだ)

非難の声も楽しげに、きゃっきゃと笑いさざめきながら立ち去る少女らへ、
置いてかれた笹の葉が、名残り惜しげにバイバイと手を振った。









   おまけ


帰ろうと言って歩み始めたくせに、
ついつい別の小物屋さんの店頭で、
可愛いアクセサリに引き寄せられてしまったお嬢さんたち。

 二人とも今年の浴衣、どうするの?
 え…?(毎年替えるのか?)
 ああえっと、お友達とちょいと出掛けるとき用のですよ。
 そうそう、着付けの簡単なのが出てるんです、と。

やっぱり屈託ない会話を交わしていたものが、
何の拍子か妙な方向へと話がよじれて。

 「ウチでは、どういう冗談か、
  クリスマスツリーに短冊下げてた時期もありました。」
 「あ、ウチもウチも♪」
 「〜〜〜〜〜。//////(ウチもだ)」

ちなみに、久蔵の場合は、
あの兵庫が冗談で言ったのを、小学生だった久蔵が真に受けたとかで。
最初のうちの数年ほどは、責任取ってか、
書いたものを何とか叶えようと頑張ってくれたそうな。

 「へえぇ、それは意外ですねぇ。」

……で、何でそれが頓挫したの?
さすがにそれは間違ってると、
兵庫せんせえの苦労を見かねたご両親が教えたとか?
平八と七郎次が どうしたどうしてと食いついたのへ、
当の久蔵は しれっとしたもの、

 「短冊へ、いいお婿さんがほしいと書いたからだ。」
 「…………あらまあ。」×2

それは自分で努力して探せと言われて、
大丈夫、いい婿かどうかは俺が判定してやると付け足されて。

 「そうと言われて以降、それ以上に欲しいものを思いつけなくなったのだ」
 「……ふ、ふ〜〜〜ん?」

そもそもからして寡欲だったからか、
それにしては大胆なお願いでもあり。

 「…久蔵殿って、本当に寡欲なんだか怪しいもんですよね。」
 「まあ…勘兵衛様との決着つけるっての、まだ覚えてたくらいだし。」

偏ってるだけなのかもですよねと、
悪気はないがこそこそ囁き合ってるお友達をよそに、
小物のコーナーに、ゆかたに合わせるアクセサリとして
朱塗りのかんざしがあったの、
懐かしそうに目許を細めて眺めやる、
昔は紅胡蝶、今は紅バラ様だったりするのである。


   今年の七夕はいい天気の晩になるといいですね。





    〜Fine〜  10.07.05.


  *東京で局地的な大雨ですってね。
   ……わたしがこういう話を書いたから
   逆バリでそうなったんでしょうか?
(う〜ん)

  *他力本願といや、
   七夕伝説自体も
   天帝にその仲を左右されるカップルのお話だよねと、
   お嬢さん方は小首を傾げておいでかもしれません。

   「大体、お仕事放り出すほど、
    恋愛にのめり込んだのがいけないワケで。」
   「…大人げない。」
   「あれですね、ななつ下がりの雨は止まず。」
   「???」
   「あ、知ってる。ゴロさんが言ってた。」

   夕方4時過ぎ辺りから降り出した雨はなかなかやまないから、
   四十過ぎの道楽は止められないって、
   歳を取ってから覚えた性癖は一生続くってことへの例えに
   そういう言い方をするんですって。

   「そか、七夕伝説は、
    目が眩むような恋愛とか道楽とかは、
    早い目に覚えとかないと怖いぞって寓話なのね。」

   ……そ、そうなのかなぁ?

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